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仏教の「空」を知るならまずこの『竜樹』は避けて通れない
2008-09-14
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仏教にははなはだ不案内の評者にもすこぶる分かりやすい空観論だった。他の著者による竜樹論は読んだことがないけれども、中村元氏の解説・解釈は懇切極めているし、竜樹の難解な詩句も多年の研鑚によるものだからこそであろう、文章も平易で竜樹思想を浮かび上がらせようとする氏の真摯な姿勢に促されてじっくり読み進めることのできる充実した入門案内書になっている。『中論』全訳、巻末に西洋神秘哲学との比較、インド仏教史、文献案内付き。 中観派思想独特のタームやワーディングに初めは戸惑ったが、読んでいくうちに竜樹の考え方の面白さが滲むように分かってくる。西洋哲学との根本的な相違は認識論や存在論にあるのではなくて、倫理哲学、実践哲学がまずある。真理ではなくて実践や行いが初めに来る。人間が生きている苦への透徹した眼差しがある。そこから哲理をスタートさせる。したがって思考方法は実践や行いに向かうためにこそ使われる。そのためにいかに思考を機能させるかかがロジックの要になってくる。思考を軽やかにすること、すばやく動くこと、一瞬で全体を見渡すこと、無限の差異の同時性にとどまること。空観には縁起のもつ構造論的関係的思考があって、西洋哲学の鈍重な「実体=二元対立的」原理は一掃される。絶対的真理を構築し、彫琢するにはそうした実体的原理は有効だろうし、たしかに文明を進化させてきたのも事実だ。何より空観はそうした思考の重さからわれわれを解放するための実践的哲理なのだ。一切の実体的な思考を批判し、そのくびきから解き放ってくれる軽やかな思考の身振りにこそ真骨頂がある。たとえば宇宙の開闢、ビックバンの始まりはひょっとして永遠に始まっており、同時に永遠に終わっているものなのかもしれない、と考えられないだろうか? すると時間とは? 死とは? 想像を掻き立ててくれる。ではその思考はどこへわれわれを誘ってくれるのだろうか? 涅槃、ニルヴァーナの境地だと竜樹は言う。六道輪廻の苦しみからの解放という。しかし著者は両者は同じものだと述べる。(P298)いったん実体として思考されてしまうと涅槃の境地も空見となる。結局われわれ自身の生きている行いの中でいかに空観的に生きるかの心の持ち方に尽きよう。
人生の指針になる空の理論のすばらしい解説
2007-09-08
18人中 17 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
中論の全訳の前に、その空の考え方の理解のために本書の最初の300ページは非常に丁寧に費やされています。基本は縁起とは相依性(相互依存)の意味で、すなわち行為と行為主体とは互いに相依って成立しており、一切の事物は相互に限定し合う無限の相関関係をなして成立しているということです。これをもとにその他の仏教の概念(涅槃など)をどう理解するかとか、空と無との違いなどの解説から、西洋の学者あるいはバガバッドギターとの比較なども、初学者にもわかりやすく書かれています。一例をあげれば、仏教では”不断不常”は絶対の真理であるそうですが、これはすなわちいかなる個人存在もまたいかなる事物も永久に存在する(常住)と考えてはならないし、また反対にただ消え失せてしまうだけである(断滅)と考えてもならないといった意味であることが、空の立場から説明されています。中村元先生のすばらしい解説はある意味で中論の全訳自体より、高く位置しているように感じられます。自分というもの(自性、自我)は、他に対して、独立には存在しえない(無我)ことが説かれており、仏教の学問的理解を超えて、人生の指針になる書です。
ナーガルジュナの思想解説と翻訳
2006-12-26
12人中 9 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
ナーガルジュナの思想と仏教、その他の思想との関係などの背景となる情報、さらにナーガルジュナの重要な著作、中論の翻訳が一冊の中にまとまっています。効率よく龍樹(ナーガルジュナ)の空について調べることができます。 きわめて難解な空の思想ですが、思索と、瞑想、観察を積み重ねてみたいと思わせる思想です。
世界観と人生観を変える思想
2005-12-08
35人中 32 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
龍樹の中観思想とは大乗仏教に大きな影響を与えた哲学だが、これは初期仏教の考えに基づくものであると説く。読んでみて、全くその通りだと思った。 この中観思想こそは論破不可能な結びの論ともいえるものではないだろうか。多少難解なこの思想を著者はわかりやすく説明してくれた。これを一度知ったら人生観が変わりました。 大乗仏教の「慈悲を行い、悪いことしちゃならんよ」ということを説明付けたことでも偉大である。