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カスタマーレビュー数:4
桂離宮の数奇な運命をたどる
2008-12-04
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この著者の井上章一さんは、前にラブホテルという性愛空間が戦後日本においていかにして構築されたか、その言説を追った『愛の空間 (角川選書)』という本を読んだことがある。綿密で禁欲的な言説史の研究は、ラブホテルという軽い題材でありながらも、読ませるものであった。 その研究スタイルは本書でも健在。この本は、桂離宮という立派な古典建築を扱いながらも、建築という専門分野にはとどまらない。本書のテーマは桂離宮ではなく、桂離宮という建築の美的評価にまつわる「ディスクール」である。 ディスクール(言説)とは、複数の解釈が重ねられていく内に、それが現実に先行していくという現象を指す。人間誰しもが時に陥る、偏見や作為的なものの見方。それが積もり積もって、一つの確固とした現実として縁取られていく、その過程を本書は描く。 高評価に含まれる一種の偏見を解きほぐしているため、一見この本は桂離宮という建築物を愚弄しているようにも受け取られかねない。筆者自身もあとがきでそのことに触れ、真っ先に否定している。 たしかに、言説によってその学術的、美的評価が増殖してはいるのかもしれない。しかしどちらにしろ、戦後から拝観の制限がゆるくなり、一般大衆にとっての京都の一大観光名所として桂離宮が盛況したというのは「事実」であり、さらに簡素な構造をモダニストの建築家にもてはやされる一方で、新御殿やその他の装飾的な部分をポストモダニストやその他の建築家によって評価されたということもまた、覆しがたい「事実」なのである。 同じ建物であるのに、そのように全く両極端の陣営から評価されること。桂離宮には、まるで女性でいうところの「コケットリー」(媚態)のような妖艶でミステリアスな魅力が備わっているようである。 まだ写真でしか見たことないけど。
情報あふれる現在こそ必読の名著
2008-10-19
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桂離宮を巡るイメージや言説の拘束性の変遷について 丁寧な文献考証で明快に論じられている。 桂離宮はひとつの題材であって、ここで論じられている ことは、通念やイメージが流布することについての 優れた考察である。 小難しく言えば「事実認識の価値拘束性」や「歴史の 仮構性」フーコー的「権力」の問題ということになろ うけど、要はいかにわれわれが物を見る眼が不自由で 歪んでいるか、そのことにいかに自覚的になれるか、 実際の事例をとおして考証しているということだ。 概念的な議論でなく、実際桂離宮を巡る神話を解体して みせることで、優れて分かりやすい論考になっている。 そういう意味では、建築だけにかかわらず、何かを語る ものはかならず読んでおくべき必読書でしょう。
「桂離宮神話」を知らなくても
2007-03-23
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歴史の学術書は、基本的に、その分野の知識がないと読めない。 読んでいてつまらない。それが当然だ。 しかし、本書は、読ませる。「桂離宮」なんか知らなくても読める。 こんな本はなかなか無い。 私は小谷野氏「評論家入門」の推薦にしたがって読んだが、 氏も言う、学術的な水準は一向に落とさずに、 商用(ジャーナリズム)にも応えている、という意味が分かった。
鮮やかな神話解体
2004-01-29
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京都にある桂離宮。その建築の美しさは戦前来日したブルーノ・タウトによって見いだされ、単純簡素を重んじる日本文化を代表する建築として、以後、多くの文化人に支持され、日本建築の頂点に君臨している。本書では、以上のような桂離宮観を一つの神話と見、戦前の桂離宮をめぐる言説を丁寧に追うことで、その神話がどのように形成されていったのかを鮮やかに描き出している。本書によれば、当時の日本のモダニストによってタウトの発言が誘導され、過度に強調され、日本文化論の文脈に置き換えることで神話が形成されていったのだという。著者は近年では「パンツが見える」「愛の空間」など、キワモノのテーマを学術的に論じていくことで有名だが、それ以前に本書で見せていた、神話形成の背景にある政治力学を見事に暴いてみせる力量は素晴らしい。なるほど、この実力があるからこそ猥雑なテーマを扱うこともできるのか、と妙に納得させられた。ともあれ、ミステリのような楽しみを存分に味わえる一冊だ。なお、文庫版のあとがきも非常に面白い。普通のあとがきからは明らかに逸脱しているのだが、学問とは何かということについて、考えさせられてしまう。